研究者インタビュー
スケールの大きさ、他分野知見との融合によるアプローチが魅力

山梨県富士山科学研究所
富士山火山防災研究センター
任期付研究員
秋葉 祐里
質問1
火山研究に入った経緯と動機
これまで経験のないことに挑戦してみたいという思いがありました。元々は岩石の研究をしていたのですが、修士課程から博士課程にかけては、分野横断的な研究テーマに取り組んでいたこともあり、異分野に飛び込むことへの心理的ハードルはそれほど高くありませんでした。
また、自分自身の専門性をより実践的に高めたいという意識も強く、もう一段階、技能と視野を広げる期間が必要だと感じていました。火山分野は、何万年前の情報を探求する、観測・分析・実験・理論が交差する学際的な領域であり、自然現象のダイナミズムと社会的意義の両面を併せ持つ点に大きな魅力を感じました。
特に、富士山科学研究所のように、現場に根ざした研究を行いつつ、多様な専門家が集う環境は非常に魅力的でした。火山について学びながら、自身の研究スキルを応用した専門性を高めることができると感じ、火山分野への参入を決意しました。
質問2
現在の活動内容
現在は、主に火山地形の解析に取り組んでいます。特に山梨県が保有する高精度地形データを用いた地形解析を進めています。取得した地形データをもとに、過去の溶岩流や火砕丘の形態を判読し、地形から読み取れる形状の一次データを収集・整理しています。
詳細な地形データから、噴火様式の違いや火砕丘(噴出した火砕物が火口周辺に積もった際の堆積物の丘)の形成過程などが読み取れるのか、これから試みるところです。また、今後の数値シミュレーションに向けた基礎データ(パラメータ値)の取得という点でも、重要だと考えています。

質問3
どのように学び研究してきたか、もしくは年間のスケジュールなど
火山分野においては、まず自分自身で調査・学習した知識を土台に、必要に応じて周囲の専門家から助言を受けながら理解を深めています。異分野からの参入であるからこそ、自主的な学習と他者との対話の両面を大切にしています。
年間のスケジュールとしては、学会(国内外)や研究所主催セミナーでの発表などを見据えて研究計画を立て、それに向けて中間成果を出すようにしています。また、自分が手を付けたテーマは必ず論文化するということを自分に課しております。研究者としての成果を発信することで、その分野の発展に寄与するだけでなく、発表した論文が自身の名刺代わりになります。
質問4
火山分野の面白さ
火山分野に入って思ったのは、分野が違っていても必要な技能に関しては共通する事柄も多くあるということです。たとえば、噴出物の形状の違いをどのように定量化・統計処理すれば知りたい情報が取得できるのか、といった基本的な課題は、他の自然現象の研究と共通しています。また、溶岩流・火砕流・噴煙の数値計算においても、津波・土石流・雪崩のシミュレーションとの間に多くの共通点があります。そのため、火山を対象にしているとはいえ、自然現象を相手にするという点では、これまで取り組んできた問題と本質的に大きくは変わらないと感じています。
一方で、火山現象はスケールが大きく、予測ができない突発的な現象が多いため、私の元々の専門である複雑系科学(『風が吹けば桶屋が儲かる』ような、複雑な相互作用を扱う科学)の視点から見ても非常に魅力があります。このような性質を持つ自然現象に対して、自分のこれまでの知見や手法がどのように応用できるかを探っていきたいです。
これまでの私の研究スタイルは、あらゆる調査地のデータを取得し、そこから共通する性質や規則性を導こうとするものでした。しかし、こちらの研究所に来てからは、岩石・地質の研究者のように、調査地点をつぶさに調べ、記載し、判読するというスタイルがあることを知り、研究の視点の違いに気づかされました。どちらの研究スタイルも重要だと思っており、異なる視点が融合することで、新たな知見が得られる可能性があると感じています。
質問5
今後取り組みたいこと
今後は、自分の専門である形状解析・統計解析・非線形科学の知見を活かして、火山現象に潜むパターンや構造を明らかにし、火山活動の予測や理解に貢献していきたいと考えています。
特に注力していきたいのは、数値シミュレーションによる溶岩流の到達距離や到達時間の予測です。これは、富士山の火山ハザードマップを、より現実に即した内容に近づけることができると考えています。溶岩流の挙動は地形、粘性、噴出率など多くの因子が絡む現象であり、現実に即した予測モデルの構築が求められます。
ここに対して、自分がこれまで扱ってきたアプローチを応用し、現象の本質に迫ることができると考えています。こうしたモデルは、将来的には防災・減災や地域計画にも役立つと考えており、学術的な貢献だけでなく社会実装も見据えた研究を展開していきたいと思っています。