鈴木猛康先生退職記念講演会を開催【鈴木猛康センター長】

主催:山梨大学 地域防災・マネジメント研究センター
開催日時:2022年3月15日(火)15時~17時
開催場所:ベルクラシック甲府 3階 エリザベート



15年間を振り返って(前センター長 鈴木猛康)  2022/4/4追記

山梨の土地も人も大好きだからです。退職記念講演の後、山梨に残る理由について友人から受けた質問に対する回答であった。

15年前に山梨大学に赴任した際、私は山梨と縁もゆかりもない存在であった。地域の防災研究者としては、山梨の自然素因と社会素因の両方に精通していなければならないので、私は一大決心をした。それは、研究のフィールドを山梨県に置き、行政や県民を巻き込む研究テーマで外部資金を獲得すること、そしてその研究に学生を参加させること、であった。

前職の防災科学技術研究所では、防災情報共有プラットフォームの開発を手掛けた。平成16年に内閣府は省庁間、防災科学技術研究所は自治体~住民の防災情報共有システムの開発に着手した。私はそのプロジェクトの開発リーダーであった。この大プロジェクトの実証実験用に開発された情報システムは、未完成品であった。私は、多額の税金をつぎ込んで開発した情報システムを、実用に耐えられる完成品として世の中に送り出す使命感をもっていた。そのため、山梨をフィールドとし、ITを駆使して災害情報の共有を図り、住民・行政協働の減災をテーマとする外部資金に応募したところ、幸いなことに獲得することができた。

平成二十年からこのような研究プロジェクトを、文部科学省、総務省、国土交通省等から継続的に受託し、その都度、山梨県をはじめ県内市町村と地区住民と一緒に、住民・行政協働の減災をめざした実証的研究を行ってきた。その守備範囲は市町村では中央市、市川三郷町から着手し、甲府市、南アルプス市、甲府地区消防本部、境南消防本部等の消防本部へと拡大し、国中の市町村全域へと広がった。さらに山中湖村、忍野村、富士河口湖町、西桂町などの郡内にも広がった。多くの研究プロジェクトで、山梨県や市町村の防災担当者と心を一つにして取り組むことができた。防災意識の高い首長、有能で志のある防災担当がいる市町村では、目に見えて防災力が向上することを実感した。このような首長や防災担当者は、私のかけがえのない仲間となった。

多くの住民の皆さんとおつき合いさせていただいた。甲府市、中央市、市川三郷町、南アルプス市といった国中のみならず郡内でも、研究プロジェクトや自治体からの委託事業、地区防災計画学会支援事業等で、防災ワークショップを開催した。住民の皆さんが方言で話しかけてこられるようなり、私も歯に衣着せぬトークで接した。その結果、仲間と言える住民のリーダーが増えていった。

マスメディアの取材には真摯に対応した。当初は記者の勉強不足に悩まされたが、今では防災の法制度を実によく勉強されている。山梨大学と県内メディアで設立した山梨減災報道ネットワークの勉強会には、アナウンサーを含め5,60人が参加されるようになった。メディアの皆さんも大切な仲間となった 。

このような仲間に囲まれていることは、山梨で私が防災研究に取組んだことに対するご褒美だと思う。だから山梨に残る決意をしたのである。

私の主宰する特定非営利活動法人防災推進機構の事務所を、大学の研究室から甲府駅北口の高層ビルの一室に移した。同機構はIT防災と防災ビジネスの創出・普及展開を主たる事業としている。防災に関わる民間企業の社員が増えると、その社員が家族、親戚、友人に仕事の話をするので、防災対策の普及が期待できる。防災ビジネスの拡大は、防災の裾野を広げるのである。